“本物”を手にした瞬間、“安かろう・悪かろう”を恥じた。
包丁は日々、家族を支える大切な<手道具>。
だからこそ、いいものを長く大事に使いたい。
建築職人が絶賛する、あらゆる道具が揃う専門店で、
日々の生活に、本物の<手道具>を取り戻そう。
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左官職人の技を支える鏝(コテ)。これだけの種類を揃えているところはそうはない
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和宏さんの父、二見屋の創業者である光宏さん作のひょっとこのお面。光宏さんは彫刻の教室に出向き、道具の手入れの仕方を教えているという
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洋服用の裁ちばさみ、庭の植木用、切花用、キッチンバサミなど用途に応じたハサミがズラリ。ハサミの研ぎにも応じている
店長からの一言
磯部和宏さん、由美子さん
包丁は毎日、使うものです。一生モノと思って、ちょっといいものを使ってみてはいかがでしょう。物があふれている時代、捨てて新しいものという考えもありますが、いいものを長く使うのもいいものです。いらしていただければ、必ずお気に入りを見つけていただけると思います。どうかお気軽に、お店をのぞいてみてください。包丁やはさみなど刃物の研ぎもしますので、ぜひご利用いただければと思います。
基本情報
店名 | 福生 二見屋 |
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住所 | 福生市牛浜49 |
電話 | 042-551-1540 |
営業時間 |
7:00~19:30 |
定休日 | 日曜 |
駐車場 | あり |
カード使用 | |
URL | http://www.t-net.ne.jp/~f.futamiya/ |
ストーリー
建築道具が大集合、鋳造技術の粋が一堂に
店内に入った瞬間、鈍色の光を放つ刃に目が吸い寄せられた。鉋(カンナ)や鑿(ノミ)など伝統的な大工道具、左官仕事に欠かせない鏝(コテ)やプロ仕様の彫刻刀など、ありとあらゆる道具たちの存在感といったら、まさに圧巻の一言だ。
刃のひとつひとつに「男盛」「輝秀」「千代鶴」など「銘」が切られ、鋳造した名工の意地と誇りがありありと迫ってくる。これぞ、日本古来の伝統的鋳造技術の粋そのもの。ひとりでに「えー」とか「うわー」とかと小さな叫びが漏れ、職人技術の見事さに息を呑む。店内にあるさまざまな道具に対面するだけでも、大いに意義があると思う。
しかも、その種類たるや半端じゃない。店主の和宏さん曰く、「これだけの数を揃えているところはまずないので、都内や他県など遠くから来られますね。職人さんが『やっと、あった!』って、手道具を捜しに見えられます」。
道具こそ、職人の魂そのもの。職人にとって貴重な“垂涎ショップ”であることは間違いない。
納得の“マイ包丁”が生み出す、家族の時間
和宏さんの横で、「最近は一般のお客さんが増えているんですよ」と妻の由美子さんが笑う。「今、使ってるのは、切れなくてダメなのよ」、「刃物を買うのには二見屋さん、いいわよね。スーパーのはすぐ切れなくなって・・・」と、女性たちがわざわざやってくる。
たとえば、主婦に最も身近な包丁。量販店なら2000円代が主流だが、安くても5000円からというラインナップ。一番売れ筋の牛刀が8000円、菜切り包丁の5900円という価格に驚いていたら、由美子さんは19400円という菜切り包丁を見せてくれた。
「売りっぱなしではなく、品物に責任を持たないといけない。だから、間違いのない品質のものしか置いてないんです」と和宏さん。
“安かろう・悪かろう”でもヨシとする量販店と、対極にある店なのだ。しかも包丁を勧める際は必ず柄を握ってもらい、本人にとっての“ベスト”を選んでもらうという。量販店では包丁はパッケージされているので、握ることは不可能。包丁自体の重さや刃の長さ、柄の形状など人それぞれ好みがあるわけだから、至極当然のサービスだと言われて初めて気づく。
「鋼(はがね)本割込という、鋼をステンレスで挟んでいるものがお手入れもしやすく、使いやすいと思います。切れ味が悪くなればウチで研ぎますから、そうして長く使っていただければ。研いで刃が小さくなれば、ペティナイフに加工もできます」(由美子さん)
「研ぎも、責任」と和宏さんは言う。包丁の研ぎは1本600円、柄の交換は500~600円で受けている。
「ウチで買ったものだけじゃなく、『家にあるもの、包丁でもはさみでも全部、持ってきなよ。研ぐから』と言いますよ」とは、主婦にとってどれほど心強いことだろう。今、二見屋には遠方から宅配便で、はさみや包丁の研ぎの依頼が来る。それほど確かな技術なのだ。
これまで何度、安物の包丁を買い換えてきたことか。最も身近な道具だったのに、何とおざなりな考えだったのか。家族を支える大事な道具だからこそ、いいものを長く大事に使いたいと心から思う。それこそが、家の文化を形作ることでもあると。子どもの頃、包丁やはさみは捨てるものではなく、研いで使い続けるものだった。
“本物”の道具がもたらす、豊かさを日常に
スタートは、「目立て屋」から
かつて、「目立て屋」という商売があったことを初めて知った。正確には「鋸(のこぎり)目立て専門職」といい、昭和40年代頃まではかなりの目立て屋が東京にあったという。切れなくなった鋸の刃を1本1本ヤスリで研いで「立てて」いく仕事で当時、鋸目立て専門技術を持っていれば一生食べていけると言われたという。
和宏さんの父、光宏さんは目立て屋として、昭和36年6月に福生で独立、現在地に店を構えた。当時は目立てだけで商売になったというが、やがて鋸の替え刃の登場で仕事は減り、木工機械や電動工具が商売の中心となっていく。こうして大工、左官、建具、経師、設備工事など建築に携わる職種を支える店という、現在の二見屋が誕生する。驚くほど厚い品揃えは職人さんの希望に応えていく中、徐々に形作られていったという。
和宏さんは専門学校卒業後、バブル絶頂期でいくらでも就職先はあったが、「店をつぶすわけにもいかない」と家業を守ることにした。しかし、道具の名前から何からさっぱりわからない。そこで問屋に就職、3年の修行を経て店に戻ってきた。
「日中は職人さんの現場に出向いて、御用聞きをやったり、機械の修理をしたり。量販店と違い、現場に出向いて職人さんの要望に極力、即座に応えます」(和宏さん)
まさに、職人と共に歩んできた店なのだ。
手の道具は、手入れしながら長く使うもの
敬老の日に市から贈られる商品券で包丁を買い、「後に残るものができてよかった」と喜ぶ老婦人。結婚する娘や姪に、「いい包丁を持っていないと」と、門出へのプレゼントを贈る女性たち。亡くなった母や祖母が愛用していた包丁をきれいに修繕して、「大事な形見、これで大切に使えます」と喜ばれることも。由美子さんは、店内でいくつもの包丁を巡るシーンに立ち会ってきた。自らも主婦として毎日、包丁を握る。だからこそ、切れなくなれば捨てるのではなく、いいものを長く使ってほしいと願っている。
一見、職人さん御用達ショップのようで入りにくい感は否めないが、「入ったら買わなきゃいけないわけではないので、お気軽に寄っていただける店にしたい」と日々、店頭に立つ。地域に密着した、気軽に足を運べる店にしたいという思いがあるからだ。
柄の握り、刃の幅など包丁はひとつひとつ違う。「一丁ずつ見比べて、握っていただければ、必ずお気に入りの一つが見つかります」と、間違いのない品物しか置いていないという自信ゆえの言葉が頼もしい。
「『二見屋さんで選んで、本当によかったわ』って、喜んでいただけるのが一番ですね。手の道具こそ、お手入れをしていただいて長く使ってほしいです」と由美子さん。
刃がこぼれて魚がさばけず、カボチャの専門包丁となっていた、錆びきったわが家の出刃包丁が、光宏さんの手でピカピカに輝き、スパスパの切れ味となって戻ってきた。それほど質がいい包丁ではないけれど、大切に使おうと心から思う。そして自分の人生にとって初の、納得の包丁をいつか、手にしたいと秘かに誓う。