美しいせせらぎを眺めて、
扉の向こうに入るや、
そこは、日常から離れた別世界。
庭園を望む個室は、時がゆるやかに流れ、
季節を食す美しい料理に、
いつしか心が癒されていく。
令和の今だからこそ、
新たな料亭時間を堪能したい。
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お肉もお魚も味わえる、「お肉とお魚のランチコース」は、うれしいことにダブルメイン。ランチデザートは、目にも鮮やか
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吉岩大志料理長は、2022年、調理師としての功績を讃えられ、厚生労働大臣賞を受賞。会席料理人でありながら、寿司も握れる稀有な職人
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清らかなせせらぎを眺めながら、日本情緒たっぷりの渡り廊下を進めば、日常と一線を画す料亭空間が待っている
店長からの一言
(左側)店主 三浦晃弘さん (右側)女将 三浦泰子さん
“新しい老舗”を目指して従業員一同、邁進しております。とりわけ、西多摩の季節を感じていただける、滋味深い料理を心がけています。ちょっとした小旅行気分で、特別なお時間をお過ごしいただければ幸いです。
基本情報
店名 | 料亭 幸楽園 |
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住所 | 福生市熊川1018 |
電話 | 042-551-0035 |
営業時間 |
10:00~22:00 |
定休日 | 年中無休 |
駐車場 | 80台 |
カード使用 | 可 |
URL | https://www.kourakuen.com/kouraku.html |
ストーリー
畳敷きの廊下が圧巻、日本情緒たっぷりの異世界へ
玉川上水の分水が流れる渡り廊下を通り、扉を開ければ畳敷きの高級感あふれる“異世界”が待っていた。部屋は全てが個室で、テーブルと椅子が配され、どの部屋からも日本庭園を眺めることができ、設えの調度品に上質なおもてなしを感じる。天井が高く、陽が差し込み、開放的な空間はとても居心地がいい。いつしか、日常の喧騒は遥か彼方へ消え失せ、この空間に身を置くだけで、とても贅沢だと心から思えてくる。社長の三浦さんは言う。
「私どもは、お客さまに“小旅行気分で”ゆったりと過ごしていただきたいと思っています。会席のお料理を出す2時間を、いかに楽しんでいただけるか。楽しんでいただけるよう、誠心誠意向き合っております」
横で、女将の泰子さんがうなづく。
「おかえりになられるときに、ここにきてよかった、時間を忘れて楽しんだと思っていただけますよう、仲居もみんな、頑張っております。お帰りになられる時の表情が、入ってきた時よりも柔らかくなられるとうれしいですね」
料亭である以上、もちろん料理は大事だ。だが、料理長自らあくまで、「料理は、楽しい時間を演出するための媒介」だと言う考えだ。
「お客さまの時間を頂戴しているわけですから、どれだけ満足していただけるかを、私どもは大切にしています。各部屋ごとの生花のコーディネートもそうですし、仲居の接客もそうです。この特別な空間で、お客さまが過ごされる特別な時間を、何より大事にしています」
日本の伝統文化を感じる、この“異空間”に紛れ込んだだけで、心がすーっと落ち着くのは何故なんだろう。そんな問いを心に心地よく転がしながら、さあ、待望のお料理だ。
季節を食す会席料理で、優雅に贅沢時間を堪能
料理の選択は、幅広い。スタンダードは、会席のフルコースである季節の会席「わだつみ」(6,000円)や、にぎり寿司会席「しおさい」(7,000円)だが、釜めし会席「かがり火」(5,000円)や、活魚の舟盛りがつく活魚会席「さざなみ」(7,000円)など、いろいろなコースを選べる楽しさがある。
特筆すべきは、平日ランチコースだ。肉料理と魚料理のダブルメインの「お肉とお魚のランチコース」が何と、2,500円。にぎり寿司に天ぷらが付く「寿司ランチコース」は3,500円、「うなぎせいろランチコース」はお刺身付きで3,000円と、どれも驚きの破格だ。このお値段で、上質な個室でいただけるわけだから、おトク感しかない。
この日は、季節の会席「わだつみ」をいただいた。秋らしいメニュー構成だ。栗やむかごも登場する繊細な前菜は5種、刺身4種はどれもプリプリ、ねっとりと素晴らしい鮮度。アツアツでいただく「朴葉焼き」は、濃醇な朴葉味噌をまとった天然真鯛がほろほろの柔らかさ、檜原村の舞茸の食感も抜群だ。天然ゴチや檜原産アワビ茸などが満載の土瓶蒸し。そのお出汁の見事さと言ったら、眩暈を感じるほどの衝撃だ。ここで和食なのに、デミソースをまとった牛肋肉が登場。分厚い肋肉にナイフがスッと入り、とろとろと繊維がほどけていく驚きの柔らかさ。ここに蓮根入り蕎麦もちを合わせるとは、何という発想だろう。さらりとした、しつこくないデミソースだからこそ、可能なのか。秋茄子と明日葉も添えられ、野菜たっぷりの肉料理の一皿だ。
とにかく、一つ一つの料理のボリュームがかなりのものなのだ。お腹がパンパンになって、食事とデザートへ。いつしか、お腹だけではなく、心も豊かに満たされていることに気づく。今度は友人とお酒を楽しみながら過ごしたいと心に誓い、贅沢なひとときを存分に堪能、幸せという言葉しか出てこない。
最近は、ネットで調べて遠方からの客も多い。しかも、若いカップルがクリスマスに利用する思いもしなかったケースも増えている。それだけの魅力を放つ空間が、地元にあるのだ。幸せ以外の何ものでもない。
※お料理の内容や金額は取材時のものです。季節により変わります。
昭和26年創業、“新たな老舗”を目指して
当初、継ぐ気はなかった3代目
幸楽園の創業は、昭和26年。いろいろな事業を各地で起こした先先代が戦後すぐ、東京初の製糸工場「森田製糸場」の別荘を買い取り、料亭「幸楽園本館」を開業した。経営は先先代の女将が担ったが、大浴場完備、ホテル機能もあり、泊まれる宴会場として賑い、米軍のダンスパーティーも行われるなど、大人の社交場として愛された。
昭和46年、三浦さんの両親がこの地に落ち着き、この年に第一子である三浦さんが生まれた。2代目は宴会だけでなく、結婚式の披露宴も行える会場を作り、「福が生まれる結婚式場」として親しまれた。
平成に入り、三浦さんの父が「西多摩に、海を持ってきたい」と、東日本一の生け簀を作り、「いけすレストラン浜膳」を、平成3(1991)年に開業した。
この時、三浦さんは大学生。家業を継ぐつもりは、全くなかった。ホテルの支配人かコンシェルジュになりたいと、品川プリンスホテルなどで3年半勤めたが、何かをやりたいと思っても稟議書の関門に阻まれるばかり。ならば、家に戻り、自分でやってみるのも面白いと家業に就いた。25歳の時だ。
「一度しかない人生だから、自分でやってみるのも面白い。失敗しても成功しても、それは全部、自分のせい。そのことが気持ちいい。あれから30年、今まで続けることができているのは、この時、自分で戻ることを選んだから。戻ってきたという、信念があるからです」
32歳の時に父が亡くなり、社長となったものの、経営はこれまでノータッチ、マイナスからのスタートだった。程なく、老朽化した本館に手を入れるのか、建て替えるのか、この2択に長いこと悩んだが、3代目は新しい料亭を建てることを決意した。
「いずれ、座布団と階段の世界は終わると思いました。バリアフリーで畳敷き、畳に机と椅子を置くことを基本にしました。新しい料亭の形を作りたいと思ったのです。天井は高く開放的で、車椅子でも大丈夫なユニバーサルトイレを完備しました。世の中はいずれ、このスタイルになると思ったのです。最初は逆風もありましたが……」
三浦さん、38歳の時だ。何という、先見の明なのだろう。この時から、“新しい老舗”を目標に掲げる。創業当初からのアイデンティティーを基本に据えながらも、変わるべきところは変わっていこうという信念を経営の柱に据えたのだ。
「老舗こそ、いつでも新しいことをしていこうと改革が必要なのです。“前と変わらず”では滅びると思います。だから、全く新しいことをしようと思ったのです」
この思いが高齢者や、障害がある人も、誰でも利用しやすい空間を作り上げた。バリアフリーの料亭の、何と風通しのいいことか。旧来のイメージも払拭、老若男女、今や誰でも気軽に集え、楽しめる場所となったのだ。
“西多摩のお宝探し”にワクワク中、地産地消への思い
西多摩のこの地で営業しているからこそ、感謝の思いを形にして、西多摩の魅力を発信したいと、三浦さんは強く思うようになった。その答えとして、たどり着いたのが、「西多摩産食材を使った料理」の提供だった。
そこで、“西多摩の宝探し”と銘打ち、西多摩各地の食材探しに奔走。その中で、多くの生産者と巡り合うことができた。
「飲食店とは、生産者の方々の思いに、お店の思いを乗せて、お客さまにお届けする商いだという発見が、私の中に生まれました。地産地消として、西多摩の魅力ある食材を、西多摩の人に知ってもらいたいと、こうしてお宝探しをしているわけです」
その中で出会ったのが、日の出町で養殖されている「畜養あわび」、秋川産の江戸前鮎、青梅市の川鍋鶏卵のもみじたまご、あきる野産の栗、檜原産の舞茸などだ。これらをより多くの料理に使うことで、西多摩食材の持つ豊かな魅力をもっと多くの人に知ってほしいと願っている。
「日本酒もそうです。西多摩には多くの酒蔵がある。日本酒と料理のマリアージュなんて最高です」
最近では、「お届け会席」にも力を入れる。竹が3,000円、松が4,000円。お届けすし会席は竹が4,000円、松が6,000円だ。
「うちの吉岩料理長は、2022年に厚生労働大臣表彰を受け、大学でも教えている方です。“洋服を着た日本人”と言って、和食ながら、西洋料理や肉料理を積極的に取り入れています。会席の料理人で寿司を握れる人は、ほとんどいません。全く別の世界だから。うちの料理長はどちらもできる、稀有な人。だから、会席料理の最後に、にぎり寿司が出せるんです」
料理長の貴重な腕と、三浦さんと泰子さんの思いが一つになれば、これからどんな料理やサービスが生まれるのだろう。こちらも、ワクワクが止まらない。