「全て手作り」も、「全て美味しい」も当たり前。
おススメじゃないものは、メニューにない。
目印は、熊川駅前のイタリアンカラー。
小さなお店のドアを開ければ、
シェフが腕をふるう、“美味快感”が待っている。
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ホッとできる、隠れ家のような空間。広さ的にもとても落ち着ける
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「自家製ソーセージ」(500円)は、むっちりとした食感。各種ハーブの香りが鼻に抜け、ジューシーな味わい。肉を食らったという満足感に包まれる
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具を包んで焼く「カルツォーネ」(1000円)。もちもちの皮がとてもおいしい。溢れ出すチーズととろりとした卵、イタリアのソーセージがいいアクセント
店長からの一言
山嵜秀夫さん
一見入りにくい店ですが、怖がらずに、勇気を振り絞ってドアを開けてみてください。どこにでもあるメニューではなく、ひとひねりしています。キッチン山崎の料理とはこういうものだと、みなさんに食べていただきたいと思っています。
基本情報
店名 | キッチン山崎 |
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住所 | 福生市熊川766 |
電話 | 042-552-6800 |
営業時間 |
11:30~14:00 17:00~22:00 |
定休日 | 日曜 |
駐車場 | 1台 |
カード使用 | 不可 |
URL |
ストーリー
イタリア料理を、みんなに食べてもらおう!
いつもの駅の目の前にこんなお店があったなら、どんなにいいだろうって心から思う可愛らしい外観。またたく灯りにほっとしてドアを開けるや、カウンターにテーブルが3席という、ほどよく落ち着ける空間が待っていた。
椅子に座っても安易に、「オススメは?」と聞いてはいけない。店主、山嵜秀夫さんは笑いながらきっぱりと言う。
「うちは、オススメじゃないものは置かないから。美味しくなきゃ、出すわけがないでしょう」
オープンは、2012年5月。近隣にイタリアンがないこの地域に店を構えるにあたって、こう思った。
「イタリア料理を、みんなに食べてもらおうって。スパゲティって、こういうもんだよ、前菜ってこうだよ、お肉はこうで魚はこうと」
イタリアンの魅力とは、「ダイナミックで、飾り気がないところ」という山嵜さん。店で提供するものは、おなじみのものとはちょっと違う。
「どこにでもあるメニューは嫌なんです。だから、ちょっとひねってある」
たとえば取材時の12月、パスタメニューは「カキとセリのビアンコ」「豚足とヒヨコ豆のリゾット」「鱈とじゃがいものアンチョビクリーム」など他でお目にかかったことのない、オリジナル性の高いものばかり。自ずと期待が高まるではないか。
その中で、実はオススメがあると出してくれたのが「カジキマグロの香草グリル」(1200円)。まさか、カジキとは! パサパサなイメージがあって、どちらかといえば敬遠しがちな食材だ。
供されたのは、ダイナミックでボリュームのある一皿。これほどの分厚さのカジキは初めてだった。ナイフを入れるとプリッとした弾力を感じ、予想だにしないしっとりとした食感に驚きが止まらない。噛めば噛むほど、旨味が口中に広がる。ちょうどいい塩気と、ハーブの香りがなんとも絶妙。
「この厚みが大事なんです。それと、火の通し方。中をレアの状態でお出ししています」
大胆にしてシンプル、山嵜さんが言うキッチン山崎の真髄そのものだった。
ダイナミックで飾り気なし、これぞイタリアン
山嵜さんが出してくれた「ホタテとキノコのガーリックバターソテー」(600円)は、ガーリックバターの香ばしさに尽きる一品だ。きれいなグリーンは、パセリという。
「パセリの水分が出るまでミキサーで回して、そこにバターを入れるんです」
「自家製ソーセージ」(500円)は、むっちりとした肉とさまざまなハーブの香ばしさがぎゅっと詰まった、肉を食べたという満足感がこみ上げる一品だ。ジューシーで、むぎゅっとした肉々しさの秘密は「豚の腕肉を、肉屋で粗めに1回だけ引いてもらう」ことだという。
ピザ屋で修行した山嵜さんが出してくれたピザは、具を包むタイプの「カルツォーネ」(1000円)。もちもちの皮の中から溶けて溢れ出すのはチーズに卵、そしてモルタデッラソーセージ。これって、何? どこかで食べたようなと思いあぐねていると、「カルボナーラのソースが中に入ってると思えば」と山嵜さん。まさに! ボリュームたっぷり、お腹がいっぱいなのに止まらない。
「トリッパの煮込み」(800円)は私自身、これまで食べた中で一番だと確信。内臓系なのに臭みは皆無、大ぶりの弾力あるトリッパに、フレッシュなトマトの酸味が抜群だ。
全てがオススメというのだから、とにかく全メニューを制覇したい。店を出る頃には、次のメニュー構成まで考えているのだった。
塩の魔術師? 絶妙な塩使いに悶絶
イタリアンこそ我が道
中学卒業後、周りに薦められるまま調理師学校へ入ったものの、ここは料理人の一歩には到底数えられない。卒業後、和食をやりたいと蕎麦屋へ住み込みで働くも、「1年で逃げ帰ってきた」。16、17歳の少年に未来が見えるのは、まだ先のことだった。居酒屋、ショットバーで働きつつ、「何年かふらふらして」、バイク修理工場で働いた後、山嵜さんは「飲食をやろう、やるしかない」と決意する。
料理人としての基礎を全て学んだというのが、福生の老舗イタリアン。27歳のことだった。
「食べに行って、『ここだ!』って思ったんです。美味さが違ったんです。募集はしてなかったけど、面接で入れてもらいました。ここで、さまざまな食材の扱い方を学びました。イタリアンの素材は単純だからこそ、難しい」
はっきりと道は決まった。イタリアンだ。
「イタリアンって、単純なんです。その単純さこそ、すごいって思ったんです。飾り気がないところもダイナミックなところも魅力でした」
次は、ピザだ。立川の薪釜ピザの店で5年、ピザ場を担当して独立した。
「当時、日の出町に住んでいたので店をやるなら、五日市線沿線しかないなと。この店を見つけた時、絶対、ここしかないと思いました。人を雇うのではなく、一人でやるつもりだったので、広さ的にも駅前という立地も、理想でした」
常連さんを飽きさせないように
ランチは、11時30分から14時まで。メニューは夜と一緒。パスタは全種、サラダとドリンクがついて1200円、ピザは1000円だ。人気は「ガーリックトマトチーズスパゲティ」、「アラビアータ」「カルボナーラ」、夜は「若鶏とじゃがいものロースト」がよく出るという。
山嵜さんの料理を食べて思うのは、塩使いの絶妙さだ。塩で勝負できるなんて、よほどの自信の現れだろう。
「塩は本当に難しい。でも、自分の塩加減は大丈夫ですよ。実は、胡椒があまり好きじゃないんですよ。カルボナーラは使わなきゃいけないから使ってますが、ほとんど塩だけですね」
塩の存在をここでは感じる。塩が料理の決め手になっていることも、食べていれば自然とわかる。
うれしいのは、これでいいのかと思うほどの良心的なコスト設定だ。ワインは「こだわっていない」とハウスワインのみ。デキャンタで700円。ビールに焼酎、日本酒と、イタリアンの垣根を超えて自由にお酒を楽しめる店でもある。
「和食を作るのも好きだし、頻繁にくるお客さんを飽きさせないように、いろいろ工夫するのも好きなんです。言ってみれば自分のこだわりなんですが…」
さらっとさり気なく話すが、山嵜さんがお客をどれほど大事に思っているかがよくわかる。
今宵、居心地のいいカウンターで、“山嵜マジック”にどっぷり浸る。幸せな時間が間違いなく流れる。