「料理とは、その人の心です」―、板前歴69年の店主は、きっぱりとこう言い切った。「大将のやさしい味を知ってほしい」と寄り添うのは、恋女房の京子さん。旨し酒に、名酒菜、あたたかな心づかいに満ちあふれ・・。珠玉の居酒屋が、足元にあった。
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嘉泉、澤乃井、多慢自慢と西多摩の地酒も楽しめる。とりわけ、澤乃井の充実度は特筆もの。
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ランチメニューのひとつ、まぐろ中おち定食、1000円。自由に選べる小鉢は筑前煮、小松菜の胡麻和え、玉子焼きをチョイス。
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お造りの仕上げに余念がない店主。職人の顔だ。
店長からの一言
阿部三千男さん、京子さん
魚あり、肉あり、焼き物、煮物、何でもお好みでお召し上がりいただけます。産地にこだわり、吟味した季節の旬の素材を、心をこめてお出しします。一年中、何か煮物を作っていますが、とくに煮物と吸い物は、どこにも負けない自信があります。どうか、お気軽にご来店ください。
基本情報
店名 | 味家 京 |
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住所 | 福生市福生1015-1 |
電話 | 042-530-7114 |
営業時間 |
11:30~14:00 17:00~23:00 |
定休日 |
日曜 予約の場合は承ります |
駐車場 | 近くに有料駐車場あり |
カード使用 | 不可 |
URL |
ストーリー
包丁握って68年、料理人の矜持に貫かれた店
店主・阿部三千男さんは必ず、白衣にネクタイという姿で客の前に立つ。昭和25年、銀座の一流割烹からスタートした、料理人としての矜持がここに如実に現れている。寡黙で多くを語らない職人肌の店主が、「料理とは、その人の心、しかないんです」と教えてくれた。心とは、相手を思いやること。その気持ちがあって初めて、料理は成り立つのだと。
だから、まず素材を吟味する。四季折々の野菜や魚介類は、経験に裏打ちされた確かな目で、厳選されたものばかり。採算度外視し?と思えるほど、そこに妥協はない。
イチバンの楽しみは、毎日のおすすめメニュー。この日は「特大 岩ガキ」(1000円)、「川ハギ刺身 肝つき」(1500円)、「白子」(800円)等々、酒呑みの勘所をしっかり押さえた垂涎の肴がズラリ。定番の人気メニュー「だし巻き玉子」(500円)は、驚きのボリューム、ふわふわ、しっとりの味わいは感激ものだ。運がよければ、裏メニューに遭遇も・・。
極上の多種多彩な酒肴に、伴走するのは選りすぐりの銘酒たち。杯を重ねつついつしか、「いい居酒屋を知ることは、大事な財産なんだなぁ」という真理に行き着くのであった。
誰でも、すぐに常連に
オープンは平成9年。「大将のやさしい味を、皆さんに少しでもわかってほしくて・・」と、ママ=京子さんの強い思いゆえのことだった。そして店の名は恋女房の名前から・・。
店内は全体が畳敷きの空間で、のれんをくぐるとまず玄関で靴を脱ぐ。まるでどこかの家にお邪魔するかのよう。常連さんたちは一様に、「まるで家に帰ってきたような・・」「ほっとできる家庭的な店」と口にするが、もちろん、京子さんの明るい笑顔あってのこと。居心地がよくて、「誰でも、すぐに常連になれちゃう」という懐の深さこそ、大きな魅力だ。
開店当初から行っているランチタイムは、メインメニュー以外に小鉢3品が選べ、デザート、コーヒー付きで1000円。破格のサービスに、「心」を感じざるを得ない。「大将の煮物は、本当に美味しいの」と、しみじみと京子さん。その店の味は、煮物でわかるというのもまた真理。ならば、至福の楽しみが、ここ福生駅前に待っているということだ。
今宵、「京」で会いましょう
15歳からの板前修業
店主・阿部三千男さんが両親の反対を押し切って、料理人の世界に飛び込んだのは弱冠15歳、時は昭和25年のこと。銀座5丁目のうなぎ割烹「竹葉亭」から、阿部さんの板前人生はスタートした。本店は創業500年の格式ある老舗。3畳間に4人で起居する住込み生活、2年間、雑用を何でも行う「追廻」として、「涙が出るほど」苛酷な板前修業の日々だった。
4年後、料理人の三役である「焼方」として、銀座の高級料亭「ゆうぎり」へ。ここで人生の師匠ともいうべき、「日本で5本の指に入る親方」と出会う。「料理とは、心」という、一生、胸に刻む教えや、さまざまなことを親方から学んだという。
その後、腕を磨くために渡り歩いた店は4件。58歳で京子さんと出会ったことが大きな転機となり、62歳の春、京子さんゆかりの福生の地に初めて、自分の店を開いた。
素材を吟味するということは・・
「茨城産の、この三つ葉が出ないと土瓶蒸しは絶対にやらない」と店主。年中、出回っている三つ葉ではアクが強すぎるのだと。あるいは里芋、「これから新潟、福井産が出てくるから、もっとねっとりしてくるよ」と。じゃがいも、かぶ・・、店主の頭には一体、いくつの野菜カレンダーが入っているのだろう。それは、50年の経験ゆえ可能なことなのだ。
休日には二人で、素材を探しに各地を訪ね歩く。勝浦港には独自のルートを開拓、漁船が戻る午後3時頃に電話で水揚げの様子を聞き、翌日朝10時には注文したものが店に届くという。あるいは寒ブリは富山・氷見産しか使わないから、金沢・近江市場から直送する。
魚も野菜も、職人の目利きで選んだ、その時期の最高のものしか使わない。これが「素材を吟味する」ということの中身であり、実直なまでに心をこめる「京」の日常だった。そうか、この空間に漂う、ゆったりとした居心地のよさは、お客を心底大事に思う、店の懐の深さゆえのことなのだ。だからこそ・・、さあ、今宵、「京」でお会いしましょう。