とびきりの魚と粋な酒肴に出会う、造り酒屋の酒処
イチバンチノサケトカツギョ ショクドウ イシカワ
一番地の酒と活魚 「食道 いし川」
「魚の鮮度」に自信があります
- 住所
- 福生市熊川一番地 石川酒造敷地内
- TEL
- 042-513-7020
日本情緒あふれる酒蔵に、
酔人を鷲づかみにする一角ができた。
確かな目利きに裏打ちされた活魚に、
趣向を凝らした秀逸な肴で、地酒をキュッ。
さあ、極上の時を心置きなく味わうのだ。
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刺身盛り合わせ。生簀に泳ぐ魚を網で掬って、一気にさばく。イキの良さはもちろん、個性豊かな魚の旨味を存分に引き出す
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酒粕を使った「銀だら西京焼き」。酒粕ならではのやさしい甘みをまとった銀だらが、箸を入れればホロリと崩れる柔らかさ。日本酒にも白米にも合う、テッパンの一品
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ランチメニューの「海鮮丼」。選りすぐりのツヤツヤ、ピカピカの魚が豪華共演。小鉢2種がうれしい
店長からの一言
松本潤さん
お一人さまでも団体さまでも、気軽にお使いいただける店です。 魚の鮮度はもちろん、煮物にも自信があります。 地酒に合った料理でおもてなしをさせていただきますので、ぜひ、 いらしていただければと思います。
基本情報
店名 | 一番地の酒と活魚 「食道 いし川」 |
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住所 | 福生市熊川一番地 石川酒造敷地内 |
電話 | 042-513-7020 |
営業時間 |
11:30~15:00(ラストオーダー 14:30) (平日ランチ)17:00~22:00(ラストオーダー 21:30) (平日ディナー)11:30~22:00(ラストオーダー 21:30) (土日祝) |
定休日 | 水曜 |
駐車場 | 有り |
カード使用 | 可、キャッシュレス決済対応 |
URL | https://www.tamajiman.co.jp/info/194 |
ストーリー
いいものしか置かない、こだわりの活魚たち
店内に入り、まず目を引くのが生簀だ。いろいろな魚が、悠然と泳ぎ回るさまは圧巻だ。この活魚を網ですくい、松本さんが即座にさばく。カウンターからは、鮮やかな一連の手さばきが手に取るよう。見事なパフォーマンスに胸が高鳴る。
この日、出してくれたのはカワハギ。薄造りの白身はプリプリ、コリコリ。舌を跳ね返すほどの食感だ。この白身を濃厚な肝醤油にからめていただき、熱燗をゴクリ。これぞ至福、夢の境地。熊川でまさか、これほどのカワハギを食せるとは。驚愕が止まらない。
店主の松本さんは胸を張る。
「ここの売りは活魚です。近隣では、一番新鮮な刺身を出していると思います。自分が養殖ものが嫌いなので、天然のものを選んで入れています。毎日、市場に行きますが、いいものしか連れてきません。魚は間違いないと思います」
ふぐ料理屋をやっていた経験から、近隣では珍しいふぐもメニューに並ぶ。この日のおすすめは「ふぐのぶつ刺し」。東京湾の「正才ふぐ」を湯引きにして乱切りに、ポン酢とネギともみじおろしで食す。ぷりぷりとした弾力ある食感と、ぶつ切りだからこそ味わえる、正才ふぐならではのふわふわの身の柔らかさ。2つのハーモニーが口中で複雑に絡み合い、エッジの効いたポン酢ともみじおろしが最高の伴走者となる。何という、幸せな時間だろう。
さらに、松本さんのおすすめは「あん肝」だという。
「通常、あん肝は丸めて蒸しますが、自分は昆布だしと酒で炊いて、余熱で火を通します。蒸すと外側と内側の火の通りが違ってしまうので、それはしたくないのです。塩を入れて炊くと、旨味が外に逃げません。この作り方をしているのは、自分だけだと思います」
そのあん肝は口に入れた瞬間、ふわりと一瞬で溶けた。何という、絶妙な火の入れ方なのだろう。ふわふわでクリーミー、こんなあん肝があっただろうか。初めての食感と清らかな味わいに、「もはや、このあん肝しか食べたくない」と、食べ終わる前に確信していた。
酒蔵ならでは、酒粕や麹を使って
とにかく、日本酒に合うメニューがズラリと並ぶ。酒蔵だからこそ、酒粕や塩麹を使った料理も味わえる。松本さんの一押しが、「酒粕もつ煮」だ。
「粕汁をもつ煮に置き換えたものですが、その日に蔵から届く粕によって、味が変わってくるんです。毎回違うので、味を調整しないといけないのですが、それが楽しいですね」
そのもつ煮も、初めて食す味だった。とろりとした味噌ベースの汁は、甘くてコクがあって、ほっこりどこか懐かしく奥深い味わい。最後の一滴まで飲み干してしまうほど。もつは新鮮かつ下処理の確かさゆえに臭みどころか、清らかさを感じるほど。とろりと柔らかく煮込まれ、根菜や豆腐と頬張れば、もはや箸が止まらない。
酒粕を使った「銀だら西京焼き」もほろりと崩れる柔らかな身に、酒粕ならではのやさしい甘みが加わることで、日本酒にも白米にも合うテッパンの一品に。松本さんが言う。
「本日のおすすめが、メインになります。いつも、自分が遊びたくなる食材を入れています。これをこうしたら、みんなが食べたことがないメニューになるかなーと考えるのが好きなんです。だから、お品書きもその日、その日で違います。どういう出し方にするか、日々、ライブですね」
たとえば、コースの魚料理、食材は金目鯛。金目鯛と言えば煮付けが王道だが、それではつまらない。昆布だしで炊いたごぼうとじゃがいもをペーストにして敷き詰め、皮目をパリパリにソテーした金目鯛を乗せ、有馬山椒の佃煮を使った甘辛いタレを、ソース代わりにかけて食すという一品を、松本さんは供すのだ。
何という独創性、かつ意外性だろう。今まで出会ったことのない料理が、皿の上にある喜びがここにある。そう、お通しが「蛸の子を明太子で和えたもの」って、そのスターターだけで、店の斬新さを物語っているではないか。
わくわくと心踊る期待の店が、熊川一番地に燦然と現れた。その喜びを多くの人と分かち合いたい。
酒蔵で、夜もじっくりと和食と酒を
要望はひとつ、多満自慢が売れる店
「造り酒屋でありながら、夜、お酒を出す店がないというのがあって、夜に何かって、ずっと考えていた。日本酒に合う、美味しい和食を出す店をと。だけど、肝心の料理人がいない。誰かいないかとずっと探していました」
始まりを、石川彌八郎社長はこう語る。松本さんに白羽の矢を立てたのは、2020年夏。当時、松本さんは拝島で「ライブキッチンMJ食道」という飲食店を営んでいた。
「一人でも家族でも友人とでもつい行っちゃう店で、生簀があって、魚をすくってさばくというのが、アクション的にもいいかなと」
その申し出に正直、「びびった」と松本さん。しかし、1週間後には石川社長に、店を引き受ける返事をした。
松本さんは昭島市出身、実家が魚屋で魚はさばいていたし、小学生の頃から料理が好きでいろいろ作っていた。23歳の時に料理人になろうと、食品会社勤務を辞め、都内の日本料理店に修行に入った。
「店の終了後、3時か4時まで親方のもとでふぐの練習をして、その後、親方に飲みに連れられて、その後に学科の勉強ですよ。寝る時間なんてなかったです。親方から、『俺が教えて、一回で免許を取れなかった人はいない』と言われ、プレッシャーですよ。2ヶ月で、ふぐの免許を取りました」
30歳で地元に戻り、拝島にふぐの専門店を開業した。
「先輩から専門店でないと成功しないと言われ、ふぐ料理が100個浮かんだらふぐ屋をやろうと思い、それができて、ふぐでいろいろ遊べるとわかり、開業しました。ですが、いいものの味をわかっている人が少ないことを実感しました」
ふぐ屋を閉め、他の店を手伝った後、「MJ食道」をオープンしたのが2019年11月。そして2020年12月4日、松本さん自身2店舗目となる「いし川」を開いた。
食べる人の美味しい顔だけを励みに
活魚がメインの店だが、松本さん自身は「煮物に自身がある」と言う。確かに、立派な大きさの金目鯛の煮付けは、さらりとした煮汁が金目鯛ならではの美味さを上手に引き出す。
「本日のおすすめ」には「うにく(うにの肉巻き)」や、「和牛にぎり」など変わり種の肉メニューも並ぶ。
「和牛のにぎりは、MJ食道のメニューで、かなりの人気です。鹿児島A5ランクを使い、表面を色が変わらない程度にさっと炙るのですが、一瞬で溶けます」
そ、それはぜひとも次に食したい。これら「本日のおすすめ」はそそられるものばかりだが、4000円からのコースも用意されている(8000円コースから、要予約)。4000円なら先付、刺身、焼魚、温物、揚物、酒菜、蕎麦、果物と料理の種類は示されるが、内容はその日によって違うという。
「コースのお品書きって、1ヶ月同じという店が多いですが、うちは毎日違います。メインが当日に切り替わることもあります。市場に行っていい物がなかったら、事前に決めていたとしても、それは使いませんから」
カウンター席があるため、一人でも気軽に立ち寄れる店となったし、ランチメニューもかなりの充実ぶりだ。
難は駅からの遠さだが、松本さんは予約客に限り、レシートを出してくれれば、片道分のタクシー代を店が出してもいいと考えている。まさに、至れり尽せりではないか。
「来てもらえることが大事ですから。自分は『美味しい』という言葉はあまり信じていないんです。でも人って、美味しいものを食べている時って、顔が変わるんです。その顔を見ているだけで、満足です。それを見て、ニヤニヤしています」
石川社長は今後、石川家と関係のある他の蔵の酒を出して行くことも考えているそうで、これから、どういう喜びを提供してくれるのか、大いに楽しみだ。意外性の塊の新店舗が、石川酒造の一角に誕生したことを心より喜びたい。