具沢山でたっぷりの量でありながら、
値段は信じられないほど庶民的。
昔ながらのあっさりとしたスープに細麺が絡む、
店主イチオシの醤油ラーメンこそ、
この道60年の技と心意気の賜物だ。
-
不動の人気を誇る、2品。ゴロゴロのチャーシューがどっさり、タケノコの食感がいい アクセントになっているチャーハンにはファン多数。絶大な支持を誇る
-
何が隠し味になっているのか、奥深い味わいのソースが、プリップリのエビに絡み合う。驚くほど、エビの数が多い
-
もちろん、餃子も手作り。餡には白味噌、牡蠣油などの隠し味多数。肉汁たっぷり、 野菜の甘味が濃い
店長からの一言
佐藤 憲昌さん
昔懐かしい味わいのラーメンが楽しめる店です。人気は醤油ラーメンに チャーハン、そして餃子です。A・Bセットは割安になっていてお得で すし、量もたっぷり食べられます。深夜2時まで営業していますので、 飲んだ後のシメにもどうぞ。お気軽にお越しください。
基本情報
店名 | けんけんラーメン店 |
---|---|
住所 | 福生市福生1015-1 |
電話 | 080-3312-6979 |
営業時間 |
11:00~14:00 18:00~29:00 |
定休日 | 日曜 |
駐車場 | 近隣の有料駐車場をご利用ください ※店内喫煙可 |
カード使用 | 不可 |
URL |
ストーリー
店主が誇る、AセットとBセット
ほとんどのお客が注文するのが、AセットとBセット。Aセットは醤油ラーメンと半チャーハン、Bセットが醤油ラーメンと半肉たまご丼で、どちらも950円。ご飯ものに「半」を付けてはいるが、はっきり言って一人前弱ほどの量だ。
佐藤さんが作る自慢の醤油ラーメンは、昔懐かしいあっさりとしたスープがその真骨頂。きれいなスープの表面には脂が一滴も浮かぶことなく、濁りは皆無でどこまでも澄んでいる。カツオ系の魚介の香りがほのかに鼻に抜け、やさしく奥深い味わいで、お年寄りでも飲めるスープだと確信する。
「スープのベースは豚骨と鶏ガラ、丸鶏を二羽、カツオ、鯖ぶし、煮干しと企業秘密のあと2つを入れてコトコト煮出すの。今、流行りのコッテリ系ではなく、年配の客にも楽しんでもらえるスープに、敢えてしてるんだよ。若者には物足りないかもしれないけど」
どこまでも奥深いあっさりしたスープに、ストレートの細麺がよく絡む。自家製チャーシューは脂身の多いバラ肉で、しっとりと柔らかく、味付けもしっかりしている。驚くべきことに、これが毎日食べることができるラーメンだと思う。
人気の双肩をなすチャーハンは、ゴロゴロに切ったチャーシューがどっさり、タケノコの食感が楽しく、ごはんはパラパラに仕上がり、濃い目の醤油の味付けがどこか懐かしく、一気にかっこんでしまいたい衝動に駆られる。
中華鍋を振って60年、15歳から中華職人の道を志した店主が70代になり、たどり着いた境地がここにある。一朝一夕の味ではないことは、一度食べれば明らかだ。
自慢のぎょうざに、一品料理の数々
テーブルに供されたぎょうざ(5個400円)を見た瞬間、その大きさに驚いた。ここにも、店主の心意気がある。女性なら、皿の上の5個だけで満腹になってしまうのでは? 噛んだ瞬間、口中に肉汁が溢れる。野菜の甘味を濃厚に感じる。重くなくあっさりとしているので、意外にどんどん行けてしまう。これはもう、ビールが必須だ。しかし、この値段が信じられない。いいの?と思ってしまう。
麺類とご飯もの以外に一品料理や炒め物、おつまみなどメニューも多彩、いろいろに楽しめる。佐藤さんがまず出してくれた一品料理が、「エビチリ」(950円)だ。油通しをしたむきエビは弾力あるプリップリの食感、ほんのり辛みと酸味を感じるトマトケチャップベースのタレがエビによく絡む。奥深い味わいに、見えないところに工夫がされていることを思う。それにしても、エビの数が半端ない。こんなに入れていいのだろうかと思うほど。
次に出してくれたのは、「麻婆ナス」(950円)。大ぶりに切られたナスは油通しをされてトロトロ、辛みはそれほど感じない、優しい味わいの一品だった。
とにかく、一品料理はどれも具沢山でかなりのボリュームだ。
「お客さんにお腹いっぱい、食べてほしいしね。材料費が上がっているんだけど、質は落とせないし、量も減らせないし、値段も上げられない。慕ってくれるお客さんがいるし、お客さんのことを思えばしょうがないね」
御年75歳、厨房の立つのは朝の8時、そこから深夜2時まで営業しているのも、ひたすら客のため。あたたかい心意気の職人が腕を振るう町中華が、福生駅近にあるのは喜びでしかない。
修行の“旅”を経て、人生集大成の店にかける思い
波乱万丈の職人遍歴、多くの技を盗んで
佐藤さんは昭和21年に山形県鶴岡市に生まれ、東京の三軒茶屋で育つ。中学を卒業後、手に職をつけようと中華職人の世界に入った。
「たまたま知り合いが、新宿の中国料理店にいて、3食食べられ、寝るところもあるということでそこに行った。当時、住み込みで修行をする時代、1ヶ月の給料は4000円だった」
最初の修行は高級中華から始まった。その後、銀座、渋谷、池袋とさまざまな店で働いた。職人にとって修行とは、店を渡る=旅をすることを意味した。
「一つの店にしかいないと、そこのやり方しかわからない。いろんな店を渡り、いいところを取り入れて自分のものを作っていく」
昭和46年、24歳の時にラーマン激戦区の荻窪で独立。ラーメン1杯90円の時代だった。バブル期には銀行が2億の融資をしてくれてビルを建設、他業種にも手を出した。当時の1ヶ月の返済金額は、なんと110万。
「バブルが終わって、毎月の返済が難しくなって、全部、整理した。裸一貫になって、また職人に戻ったのが40代半ば。そこでお金を貯めて、埼玉のふじみ野市で店を持ったんだけど、やめられない道楽で店を潰して、蒲田で職人をやっていた頃、福生の中華屋から話があって、福生にやってきたの」
24時間営業のその店で、店を任されて10年。三たびの独立を決意する。
「人に使われる屈辱はあるね。ここで骨を埋めてもいいかと思ったけど、やっぱりもう一度、店を持とうと寝ずに働いて700万貯めて、4年前にここを開業したの」
時は2018年、佐藤さん、72歳の春だった。
目指したのは、昔懐かしいあっさりした極上スープ
「けんけんラーメン」の名は、息子の憲一さんの名前から。ふじみ野市の店から使っている屋号だ。
「昔から人に負けるのが嫌で、料理も研究だから」と佐藤さんが見せてくれたのは、ボロボロになった古いノート。ここにさまざまなレシピが記されている。例えば「醤油タレ」は、2種の醤油をブレンドしニンニク、生姜、ザラメ、シーソース、みりんなど11種もの素材が配合されている。「ドンタレ」と書かれた野菜炒めや肉たまご丼の味付けには、味噌や牡蠣油など14種も、「麻婆タレ」はラードではなく、値は張るが「カメレヤ」という臭いのしない油を使う。
「チャーハン粉もあるけど、これは企業秘密。塩ラーメンは椎茸を煮込んでスープを作るの。メンマも全部手作りだよ」
さまざま店を渡り歩き、さまざまなやり方を見て盗み、自分で研究して自分の味に作り上げたという佐藤さんの財産が、そこにさりげなく記されてあった。
見えないところに、ここまでの工夫がされていることに驚かされる。渡り歩き腕を磨き続けた、古き良き職人の世界がそこにある。その職人が最後だろうと覚悟して開いた店で追い求めたのが、あっさりとした昔懐かしい味わいのスープだった。
「70歳を過ぎ、人生の集大成としての自分の店だから、自分の味で勝負をしたかった。昔ながらの中華そばはもう飽きられているのは分かっていたけど、でも、年を召した方にも愛される味にしたいと思って、試行錯誤をしながら、ようやく納得のいく一杯になったわけです」
職人の誇りをかけた極上スープを、気軽に味わえることは間違いなく幸せだ。