お店訪問
坂東太郎に、"一箸・ノックアウト"

双璧をなす、厳選された国産鰻もピカイチ
通常の鰻も素晴らしい。重剛さんは店を継いだ5年前に、使用する鰻をすべて九州・大隅産に変えた。「単に、自分の好みですよ」と事もなげに笑うが、それこそ「身はふっくら、皮はほどよく溶けて、甘いがさっぱり目のタレとの相性がいい」という、重剛さんの供したい鰻だから。
同じ鰻重でも、こちらは身と脂と皮が渾然一体。とろとろ、ふっくらの身は脂と一緒にあっという間に口中でしゅわっと溶け、タレがしみ込んだご飯と分離せずに一体化。もはや、ひたすらかっこむのみ。「坂東太郎」よりこってり、しっかりした味わいで、ガッツリ鰻をかっこみたい時は、こっちかも~と思う。ああ、深い悩みに突き落とす「双璧」だ。
「自分の形を表現して、それで美味しかったって感動してもらえれば」と重剛さん。だから手間を惜しまない。焼き台の上で何度も何度も鰻をひっくり返す手間は、鰻の身から噴き出してくる脂で、芯から焼きあげるため。それこそ蓋を開けた瞬間の「感動」のためには、無くてはならないものだから。
もちろん2枚看板の天ぷらも、ごま油を配合した油で、香ばしくカラリと揚げる。サクサクした食感は、さすが、50年の老舗ならではの味。「うちのメニューって、昔から変わってないんですよ」と笑うように、刺身、蒸しもの、焼き物、酢の物と、日本料理の全てをカバーするのも老舗の風格。利き酒師の重剛さんが厳選した、日本酒や焼酎も秀逸だ。
創業者である93歳の祖母・松江さんが毎日お店に立ち、女将である母・京子さんのほがらかな笑顔は花のよう。こんなアットホームな老舗は、全国探してもそうはない。











鰻重の楽しみは、蓋を開けるところから始まる。高鳴る胸を押さえつつお重の蓋を開けるや、そこにあるのは小宇宙。照りっ照りの神々しいお姿に唾を飲み、心静かにお箸を入れる。驚愕はその瞬間から、始まった。お箸から伝わる"ふっくら感"、"ふわっと感"が全然違う。湯気と一緒に立ちあがるのは、とても上品でまろやかな香り・・・。
これが、3代目店主・重剛さん自慢の鰻、「坂東太郎」との出会いだった。身はふっくら、とろり、ふんわりと口中に溶け、脂はどこまでも甘く、香ばしくパリッと焼かれた皮のちゅるんとした食感も抜群だ。白身魚独特の優しい味わいをしっかり感じ、あっさりとしたタレが素材を見事に引き立て、臭みもくどさも皆無。表現するなら、上品で繊細、清らかな鰻。ああ、「何、これー!」って叫びたい。
これが養殖でありながら、餌と水に最大の配慮がなされ、天然の風味に限りなく近づいた「坂東太郎」の実力だった。
老舗の卸業者「忠平」から特別なルートで供される、近隣ではほとんど食せない貴重な鰻。これを重剛さんは注文を受けてから、割く。そうして串を打って焼いて、時間をかけて蒸して、タレをつけて焼いて供してくれる。「時間はかかりますが、味とふっくら感が違うので」とサラリと笑うが、何と贅沢な鰻体験がここでは可能なのだろう。